卒業ソングのバーナム効果

大衆にウケる曲というのは往々にしてそうなってしまう傾向にあるのですが、特に卒業ソングは曲を聴く人の思い出に依存して歌詞に意味を持たせて感動を与えているという面が大きすぎると思います。いわゆるバーナム効果というやつです。

そんなものは恋愛ソングとかでも同じなんですけど、恋愛ソングの歌詞って実体験なんだろうと思われる割と具体的な情景描写がされているし、アーティスト自身も悩んだり傷ついたりしたからこそ恋心のエッセンスを上手く抽出した人の心を動かす言葉が出来ているわけですから歌詞にも納得感があります。

一方、卒業ソングはどの学校もそう大して建物の構造に違いが無いことや、思春期の少年少女が人間関係だの将来への期待と不安に思いを巡らせがちであることをいいことに、フワッとした言葉であまりに多くの人間の琴線に触れることが出来てしまうのがよくないです。「教室から見えるグラウンド」「シューズと床のこすれる音が響く体育館」「放課後の教室」これらのワードを出せばほぼ100パーセントの人が脳内の何らかの思い出に検索ヒットするのは当たり前でしょう。少ないワードなのにエピソード検索条件の網羅性が高すぎる。
いい歌詞ってあるあるネタとしてのクオリティの高さが影響していると思っているんですけど、卒業ソングにおける「友達とはここで別れてしまうが異なる場所でそれぞれ頑張ろうと誓い合うこと」「不安もあるが新たな場所でもうまくやれるだろいうと希望を持つこと」といった概念はもはやあるあるとかじゃなくて”ある”ものですし。
その一方で蛍の光が卒業ソングのランキング上位に残っているのも謎だと思う。「蛍の光 窓の雪」って全く身に覚えにない。窓から見えたもので印象に残っているものなんて冬の雀ってめっちゃ毛が膨らんでいてかわいいなーってことくらいだし。

あと、「辛いこともあったけど~~」みたいなフレーズも抽象的過ぎて何の説明にもなっていません。
学園生活における辛いことが、仲のいい友達と些細なことですれ違ってうまく関係修復できなかった……とかの人もいれば、休み時間自席は陽キャに取られて居場所がないから教室の隅でbadモードのジャケ写の宇多田ヒカルみたいな立ち方でボーっとしてたら「月島みたいな根暗はカッコつけた立ち方するな、一生直立不動だけしてろ」と一軍の女子に言われた僕みたいな人もいるわけですし、この二つのエピソードが一つの言葉で表現されかねないというのは危険です。ニュースピーク的なアレです。

まぁここまで色々文句を言いましたけれど、歌の力で当時のことを懐かしんだりできますし、長いわりに印象に残らない卒業式の中で明確な見せ場となりうるシーンですから卒業ソングは大切だとも思っています。
つまりは僕が卒業ソングに求めるのは「アーティストの経験から出てくる具体性のある歌詞」、この一点のみです。「友達も恋人もいたし先生にもめっちゃ好かれてたから楽しい思い出しかないわ~~卒業したくね~~♪」みたいなのなら逆に興味が湧くし、「卒業式の日一人一枚色紙を持ってみんなと交換しあって寄せ書き書いてもらうイベントがあったけど、誰もメッセージ書いてくれそうな人がいなくて30分くらい息を殺しながらほぼ真っ白の白紙を周りに見られないよう隠していたあの時間、しんどかった~~♪」とか歌っているアーティストがいたら大ファンになっちゃうと思います。

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