夜十一時ごろ道を歩いていたら、すれ違いざまハンズフリー通話をしている女性が「さっきチュロス食べたんだけどさ~」と話している声が聞こえてきました。
”夜十一時”に”チュロス”を”さっき”食べた。
与えられた条件がこの三つであるとき、女性はいつ頃チュロスを食べたと考えるのが適切でしょうか。
goo辞典によると、「さっき」というのは時間的に少し前であること、と解説されています。
少し、というのが人によって解釈の異なる時間表現ですが、少なくともその日のうちの出来事であるというのは確かでしょう。
では、仮に一時間前、つまり夜十時にチュロスを食べたと仮定してみましょう。
夜十時に食べるチュロスは夕食後に食べた夜食である可能性が高いですが、夜食にチュロスというチョイスはやや珍しい気がします。
そもそもチュロスって購入できる場所が限られているうえ、買ったらすぐ食べませんか?
購入したチュロスが夜十時まで残っていて、それを夕飯後に食べたと考えるのは実現性の低い想定であるように思えます。
食べたチュロスがお店で購入したものではなく、自宅で冷凍の物を揚げたチュロスである可能性もあるでしょう。
ただ、夜食のために揚げ物の用意をするほど食に対してアクティブな方って、失礼ながらその行動力が体格に現れると思うのですが、すれ違った女性はそれなりにほっそりとした方だったので、彼女が夜食のためにチュロスを揚げるだろうか、と考えるとかなり疑わしいように感じます。
という訳で、僕個人の見解としては夕飯後チュロスの可能性は低いように思われます。
では次に、夕食前の時間、つまりおやつとして食べたチュロスであると仮定してみます。
おやつとしてチュロスを食べるのならば、お店で購入したものでも自分で作った物でも何ら違和感のないシチュエーションでしょう。
チュロスはおやつだった説のネックとなるのは、”さっき”食べたという表現の仕方です。
例えば、彼女の発したフレーズが「さっきお茶飲んだんだけどさ~」であった場合、この”さっき”が夕飯前の出来事であると考えるのはいささか不自然でしょう。もっと水分とったほうがいいですよ。
このように、物事には起こりうるのに適切な頻度があり、その常識に照らし合わせて時間表現も行うべきなのです。
チュロスを食べるというのは、水分補給とは異なり、一日一回どころか数週間に一回、人によっては数か月に一回しか起こらないイベントです。
ですので、お昼に食べたチュロスを”さっき”食べたチュロスと表現しても、その発生頻度と照らし合わせれば、時間的に少し前に起きた出来事であると解釈してもまぁそこまでの違和感はないでしょう。
とはいえ、おやつに食べたということは時間としてはおそらく午後三時ごろ、件の発言より八時間前の出来事です。
一日の三分の一も前の出来事なら、”さっき”と呼ばずに”今日”だとか”お昼に”と言ったほうがしっくりくるのではないでしょうか。
ここは言葉に対する解釈の違いが論点なので、彼女にとっては八時間前も”さっき”だったのだ、と言われてしまえばそこまでですが、僕ならその言い回しはしないかなぁと思ってしまいます。
という訳で、僕が一番推したい説は「チュロスは夕飯だった」説です。
チュロスと言えば砂糖やシナモンを振りかけた甘めの味付けが主流ではありますが、チュロスの本場であるスペインでは少し塩気のある味付けがされており、おやつではなく食事として食べるということもよくあるのだそうです。
彼女は夕飯として、本場風味のおかずチュロスを食べていた。
これが僕の考える、最もそれらしいチュロスを食べていたシチュエーションです。
”さっき”という言葉を自然に解釈できるような時間帯、つまり夜にスタイルのいい女性がチュロスを食べているという矛盾を説明できるのは、これしかないのではないかと思います。