チャンスはやってきたその時につかまなくてはならないことのたとえとして、「幸運の女神には前髪しかない」という言葉があります。
要するに来たらすぐ捕まえないといけないってことなんでしょうけど、前髪しかない女性って想像したら結構シュールですよね。アイコンメーカーでキャラを制作している途中の段階でしか見たことがない人間の状態だと思います。
僕たちは幸運の女神を如何にして捕まえるかということばかり考えていて、何故彼女に前髪しかないのかという問題を考えたことが無いような気がします。
幸運の女神に微笑んでもらうためにも、一度彼女のバックグラウンドに意識を向けてみるべきではないでしょうか。
一般的に考えて、幸運の女神にも元々は横髪や後ろ髪が存在していたのだと思います。女神と称えられるほどの方ですから、おそらく一般的な女性よりも整った顔立ちでしょうし、それ相応に髪のケアにも気を配っていたのではないでしょうか。
では何故彼女の美しいヘアスタイルは失われてしまったのか。もっとも考えうる理由として、「周囲の人間たちが幸運の女神のご利益欲しさに髪の毛を引っ張り続けたから」というのが挙げられるでしょう。
自らの成功をつかむため手段を選ばず女神を足止めしようとする醜い人間たちに追いかけられ続けた結果、彼女の頭髪はその大半を奪われてしまうことになったのです。
そう考えると、彼女が僕たちと出会うとすぐにその場から離れていってしまうことの説明も容易につきますね。女神はこれまでに受けたひどい仕打ちのトラウマで、人と関わろうとすることに恐怖を覚えるようになってしまったのでしょう。
自分だけでも成功したいという浅ましい願望が、人間にチャンスを与えてくれる優しい女神を傷つけてきたのです。やはり人間は愚か。
確かにこれまでの人間は愚かだったかもしれません。ですが人間は学ぶことが出来る生き物です。もう遅すぎるかもしれませんが、今からでも幸運の女神にやさしくしようと心掛けることはできるのではないでしょうか。
大前提として、その場から離れていこうとする女性を引き留める手段として真っ先に髪の毛をむんずと掴むって乱暴すぎるんですよ。まずは声をかけてみて、それでだめなら走って追いかけて、そこでようやく肩や手を掴むのが常識ってものではないでしょうか。
……いや違う、もっと幸運の女神の気持ちに寄り添って考えましょう。
そもそも彼女は人間にトラウマを抱えているはずなのに、なぜ僕たちの前に現れてくれるのでしょうか?しかも、前髪を掴むことならできるってことは、正面から、つまりは向こうからこちらに向かって歩み寄ってくれようとしている気がします。
きっと彼女は人間に恐怖心を抱きながらも、それでもなお僕たちに近づきたい、仲良くしたいという気持ちを持ち続けてくれているんじゃないでしょうか。でもやっぱり途中で怖くなって、その場から逃げてしまおうとしている。なんて健気な女性なんだ!
ここまでわかったのなら、僕がすべきことは明確ですね。
幸運の女神に出会ったときにすること……。それは、正面からやさしく抱きしめてあげることです。傷つきながらももう一度僕のもとへ帰ってきてくれた彼女に、「辛い思いをさせてごめんね、これからは僕が君を守るよ」と優しくささやいてあげましょう。
思えば僕も、彼女に離れてほしくない一心で厳しい言葉を投げかけたり、激しい束縛を強いてきてしまいました。本当に申し訳なかったと思う。
でももう僕はこれまでの過ちに気付きました。一時の幸福のために彼女を傷つけたりせず、正面からしっかりと向かい合って二人で幸せになろうとする覚悟を持つときが来たのです。
という訳で僕はこれから幸運の女神と”二人で”幸運をつかんでいきたいと思います。みなさんも自分だけが幸せになろうと他者を傷つけることはやめて、目の前の大切な人に思いやりを持つべきなのではないでしょうか。